お酒はハタチになってから
お酒が入ると、気持ちが揺らぐ。
それを振り切るように、私は目の前に座る若者を睨んだ。

「なに笑ってるの?」

「何でもない」

「なにそれ」

卵焼きを口に運ぶと、ほんのりとした甘みが優しく広がった。

「翔くん、お酒はハタチになってからね」

呑みたい、とも言われていないけれど私は必ず言う。

「わかってるよ」

聞き飽きたと言うように、長い指が箸を持つ。
それはそうだ。彼はこの店の子なのだから。

わかっているのに繰り返すのは、何かを牽制しているのか。
それが何なのかを考えるのは、危険な気がしてグラスを煽った。
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