Snow Doll ~離れていても君を~
「海里は親の転勤で一人暮らしだし、甘えられる場所がないからさ。でも今は違うだろ。優希奈ちゃんがいてくれる」
「私、ご飯を作るくらいしかしてないけど……」
甘えてくるようなタイプでもないだろうし。そんなそぶりもない。
「それでも海里は癒されてると思う。小学生の頃から両親共働きで不在がちだったらしいから、温かいご飯を食べられるだけでも嬉しいと思うよ」
階段の長い足を投げ出し、後ろに手をついて小野寺君は小さく笑う。
本当に海里が喜んでいてくれるならいいのに。
こんな私でも役に立っているって実感できる。
「海里って彼女、いらないのかな。前に言ってたよね」
隣のクラスの子の告白を断ったときの『彼女は必要ない』という言葉が、私はずっと引っかかっていた。
「そんなの強がりじゃねー? あいつ、意外と寂しがりやだし。この世に心から彼女いらない、なんて男がいるのかね」
小野寺君は肩をすくめて答えた。
強がり……もしそうなら、少しは救われる。
別に、それで私が彼女になれるわけじゃないけれど。
「明日の夜、小野寺君達も椿の姫を見に行く?」