Snow Doll ~離れていても君を~
私も制服に着替え、リビングに戻ったとき。
ちょうど海里がネクタイを締めているところで、その凛々しい横顔に見惚れてしまう。
頬にかかったサラサラの黒髪。
シャープな顎の線。
切れ長の目に長い睫毛。
整い過ぎていて、近寄りがたい雰囲気は相変わらずだ。
「何、ボーッとしてるんだ? 早くしないと遅刻するぞ」
いつの間にか接近していた海里に、前髪をかきあげるように額に触れられ、冷たい感触にドキリとする。
「熱はなさそうだし、大丈夫だな」
安心したようにフッと笑われ、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
また昨日みたいに抱きしめて欲しい気持ちが湧いてきたのに、恥ずかしすぎて言い出せなかった。
兄は挨拶がわりにスキンシップを取ってくるけれど、さすがにそれを海里にもねだるのは、図々しくて嫌われそう。
「……あ。ネクタイ少しだけ曲がってるよ」
代わりに、思い切って背伸びをして海里のタイを直す。
その瞬間。間近で目が合い、図らずも赤面してしまう。
「……何、今の。誘ってる?」
感情の読めない瞳をした海里が、私の長く伸ばした髪を一房掴んできたので、身動きが取れなくなる。