Snow Doll ~離れていても君を~
「ケイって。あのとき優希奈の隣にいた、女装が似合いそうな外見の男?」
「うん、そう。本当は慶蔵君ていうんだけど」
「俺は、普通に女の人の方が好きだよ。男は好きになったことがないな」
伏し目がちに言った兄は、私の片腕を取り、そっと綺麗な白い指を滑らせていった。
階段から落ちてから時間が経つにつれ、皮膚の奥から青紫の痣が浮かび上がり。手のひらや肘、体のあちこちが内出血している。
「ごめん……」
目を離した罪悪感なのか、兄が静かに謝罪する。
ブラウスの袖がまくられ、海里とお揃いのブレスレットが露わになった。
「これは何? 前はしてなかったよね」
「あ。これ……」
「男に買ってもらったの?」
白い革のブレスレットを見て淡々と兄は訊く。
無表情なのが逆に怖かった。
「大切な人に、もらった物なの」
兄の瞳が暗く翳る。
今日こそ言わなきゃ、と私は息を吸い込んだ。
「あのね、前から思ってたけど。人前でぎゅっとするのは、やめて欲しいの」
「え……」
「ここは日本だから、ね」
心を鬼にして、なるべく傷つけないようにと微笑みながらお願いする。
そうでないと、これからも好きな人に誤解されてばかりになってしまう。