Snow Doll ~離れていても君を~
痛々しい光景に、思わず顔を背けてしまう。


「危ないから向こうに行って下さい」


その隙に春馬君に腕を引っ張られ、元のベンチの方へ連れて行かれる。

そっと後ろを振り返ったとき、


「透夜──」

「山吹さん!」


樹莉さんと俊也さんが同時に叫んだのが聞こえて。
階段の付近に影が一つ、現れていた。


この勝負が始まる前に見かけた、山吹という人──。

額の辺りから赤い物が流れ出し、顔の片面を汚していた。


春馬君が小さく舌打ちをして、腕時計を確認する。

もう、時間がない──。


私が祈るように階段の方を見つめたとき。

一見すると無傷の如月先輩が姿を現し、そのあとに……海里がゆっくりとこちらへ歩いてくるのが見えた。


唇の端を手の甲で拭ったあと口から唾を吐き出し、日陰で融けずに残っていた白い雪が、彼の赤い血で染まった。


「海里……」


私の唇から掠れた声が漏れる。

でも、漂うオーラが怖くて、私は彼に近づくことができなかった。
< 42 / 268 >

この作品をシェア

pagetop