Snow Doll ~離れていても君を~
「戻れない事情があるなら、俺に従っておいた方がいいんじゃないか?」
先輩は私の髪を優しく梳き、妖しく眼を光らせた。
まさか。見返りに、体を差し出せっていう意味……?
私が声も出せずに固まっていると、
「龍臣、その辺にしておけよ」
運転席から健臣さんがたしなめるように口を挟んだ。
車が路肩に停車して、外を見るといつもの見慣れた風景。
ホテルではなく、海里のマンションの前だった。
「あの……?」
「安心しろ、本当は何も知らないから。何となく察しがつくっていうだけだよ」
如月先輩はドアを開けて私へ降りるように促した。
「ただ……、あいつのことは好きにならない方がいいと思うぞ」
「──え?」
「海里とは、結ばれる可能性はないからな」
意味深な言葉を残して、立ち去る車体。
頭上に輝く月が、足に絡みつく冷たい雪を照らしていた。