Snow Doll ~離れていても君を~
如月先輩と目が合い、緊張で思わず顔が強張る。

そんな私を見下ろし、先輩は薄く口元に微笑みを乗せた。


「家に帰れない理由が分かったと聞いたよ」

「…………」


私は無言で先輩のネクタイの辺りへ視線をずらす。


「虐待で傷つけられた痕があるとか?」

「……違います」


“虐待”なんて言って欲しくない。


「違う? それなら今すぐ服を脱いで証拠を見せてもらおうか」


眼鏡の奥の瞳を鈍く光らせ、如月先輩は私の肩に手を置いた。


「そ、そんなことできません」

「海里には見せることができても、彼氏の俺にはできない?」

「先輩には、色々してもらって有難いと思ってます。でも──」


そう言いかけたとき、急に後ろから腕を引かれた。

手元から私が消え、如月先輩は軽く目を見開く。


「俺が代わりに見たんで。今回は見逃してやってくれませんか」


私を先輩から逃がしてくれたのは海里だった。


「人には、見られたくない物があると思います」
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