Snow Doll ~離れていても君を~
「薫兄さん……、どうしてここに?」


まさかもう、連れ戻しに来たと言うのだろうか。


無言の兄は私の手首を掴み、比較的空いているコーナーの端へ私を連れ出した。


「別に。夕飯の買い出しに来ただけだよ」


淡々と兄は答え、そういえば私と一緒に住んでいたときは不在がちな母の代わりに食事を交代で作っていたことを思い出す。


「それより優希奈、男の家に居候してるって噂を聞いたんだけど、本当なのか?」


背の高い兄は心底不安そうに私の顔を覗き込んだ。


繊細な睫毛に色気の漂う艶やかな唇。

長めの前髪が、憂いを潜めた目元に影を作っている。


整い過ぎた顔立ちは、男子校に在籍させておくのが勿体ないほど。


「……それは本当、だけど」


咄嗟に嘘をつけなくて正直に言ってしまうと、兄は綺麗な眉をぎゅっとしかめた。


「でもね、部屋は別々だし、他に女の子も一緒に住んでるから大丈夫だよ」

「そう……」


女の子といっても心だけ。

しかも一緒に住んでいるわけではないことは兄には秘密だ。

一部、嘘をついてしまったのは心苦しいけど、兄を安心させるためだから仕方ない。
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