あなたの大切な人の話

十分ほど経ち、あなたは地図の確認を終え、経済ニュースを見ていました。
あなたが数ヶ月前から手掛けていた取引先の新規事業が、ようやく記事になったようです。あなたが受け持っている企業は大手先ばかりなので、経済ニュース欄にはすでに知っている情報が並んでいることも多いのです。

「お待たせしました」

彼女が戻り、あなたは軽く返事をして彼女を見ると、しばらく呆気にとられました。
長袖長ズボン、少し大きめの紺のジャージを着ています。ごく普通のジャージです。

「すみませんでした、お待たせしてしまって」

「……いえ」

彼女は増えた荷物をガサゴソとボストンバッグにしまいながら、あなたの隣に乗り込みました。潮の匂いは消え、制汗剤の爽やかな香りを感じます。

「あの、ミネラルウォーターなんですが、良かったらどうぞ」

ミネラルウォーターというのは、彼女が持つあなたのイメージなのでしょう。あなたはそれを差し出されるがままに受け取り、ハンドルの右隣のドリンクホルダーへ差しました。

「すみません。じゃあ……いただきます」