あなたの大切な人の話
ふたりで降り、軽自動車の女性と向かい合いました。
女性がまず、思い切り頭を下げます。

「あの!本当に、すみませんでした……弁償します……」

あなたは気が動転しているこの女性の言葉は、おおよそ無視をしていました。“大丈夫ですよ”とは言ってあげられません。あなたはとても怒っていますから、女性の不安など取り除いてやるところではないのでしょう。

「免許証見せてもらえますか」

「は、はい……」

女性は用意して手に持っていた免許証を差し出します。あなたはそれを受け取り、一度断りをいれてから写真を撮りました。
彼女も横から覗き込み、写真と女性を見比べます。

「お名前が……梶村理名(かじむらりな)さん?」

彼女は明るい声色で、女性にそう尋ねました。

「はい……」

「ええと……二十二歳、ですよね。免許取り立て、ですか?」

「そうです……」

彼女はうんうんと頷きながら話をし、梶村さんの不安を取り除こうとしていました。
しかしあなたは彼女と違って当事者ですし、そこまで寛大ではないので、免許証を返すとさっさと本題に入ります。
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