あなたの大切な人の話
黄色信号がすぐに赤信号へと変わると、彼女はすぐに「ではお願いします」と言い直したので、あなたは頷き、信号の先にあるドライブスルーの入り口を目視で確認しました。
青信号に変わると直進し、すぐにウィンカーを出して左折します。

しかしすぐにはドライブスルーへ入らず、その手前にある駐車場の白線に一度車を停めました。
彼女は首を傾げます。
あなたは少し面白そうに、彼女に言いました。

「ここで屋根を閉めていきます」

「……え!」

彼女はキュッと身を縮め、あなたの期待どおり、目をキラキラさせた表情に変わりました。
あなたがは慣れた手つきで運転席のハンドルの根元にある開閉ボタンを長押しすると、数秒のタイムラグの後、背後のトランクの上部に収納されたルーフが動き出します。

彼女はおそらくルーフは横から来ると思っていたのでしょう。予想に反して後ろから被さるように動き出したルーフに興奮しながら、後ろ、上、横へと首を動かします。
あなたはハンドルに片手を置いたまま、その様子を眺めていました。

「わっ……わっ……」

ルーフを動かす機械音がわずかに聞こえますが、とても静かに、ほんの二十秒ほどでピッタリと包まれました。
彼女はジェットコースターに乗った後のように呆然としています。

「……どうでした?」

あなたが緩んだ顔でそう聞くと、彼女はコクコクと頷きながら「すごかったです!」と単純な感想を述べました。彼女はまだ興奮気味に、窓とルーフの継ぎ目を確認するように眺め、またあなたに視線を戻します。

あなたがたは心なしか、ルーフが閉じてふたりだけの空間になると、距離が近いように感じたのでしょう。視線が交わうとしばらく見つめ合うことになり、数秒の沈黙が流れました。
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