怨返し─赦されない私の罪─
依奈と静華の目線が合うと、依奈は驚いた。
姿形は静華そのものだが、雰囲気から静華とは思えなかった。まるで別人を目の前にしているかのような感覚に包まれていく。
静華はニコッと笑うと、塞いだ口を空けて、言葉を発した。
「.......やあ、"ちぃちゃん"。」
たった一言で、依奈は固まった。完全に依奈の周りの時は止まり、目の焦点をプルプルしながら静華を見つめる。
声も静華の声だ。だが、目の前にいるのは静華ではないのは確かだった。そしてそれが誰なのかもハッキリと分かる。
依奈をこの世の中で"ちぃちゃん"なんて呼ぶのはただ一人しかいなかった。
「....章...ちゃん....?」
「うん、僕だよちぃちゃん。会話をするのは久しぶりだね。」
依奈は目の前にいる静華が段々姿を変え、章太へと変わっていく。生前のままの章太、肌はピンク色で、心を見透しているかのような目。自分がよく知っている章太が目の前にはいた。
幻覚なのは分かっていたし、目の前にいるのは静華の身体というのも理解していた。だが、今の依奈にとってはそれはどうでもいい事だった。目の前に章太がいる、その事実さえあれば。
依奈は唇を噛んでグッと我慢していたが、とうとう我慢が出来ず、章太に思いっきり抱き着いた。力いっぱいに章太を抱き締め、章太の温もりを感じた。