鳴らない電話を抱きしめて

決別 〜聡side〜

里緒菜は、俺から告った最初の女だった。

このルックスのおかげで、中1から3年間女が切れた事は無かった。

それは、いつも女の方から言い寄ってきたから。

来るものは拒まず去るものは追わずの俺が、俺から付き合って欲しいと告げた初めての女が里緒菜だ。




里緒菜と初めて会ったのは、高校の入学試験の時。

席が隣同士になった。


試験開始前、必要な物を揃えていた俺は、消しゴムがない事に気付いた。

焦って何度もペンケースや鞄の中でを確かめるが、何処を何度探しても見つからない。

隣のクラスでここを受ける同じ学校のヤツはいたが、時計を見ると借りに行っている時間は無いことが分かった。

万事休す… 終わったな…と思っていたら、

「あの? もしかして忘れ物ですか?」

と、心配そうな顔で話しかけてきた隣の席の女。

「あ!… えっと… 消しゴムが見当たらなくて…」

「…」

「でも大丈夫です。友達が隣のクラスにいるし… 」

彼女は、自分のペンケースの中をゴソゴソ探してる。

が、直ぐに顔を上げ、

「良かったら…コレ。私、二つ持っているので。」

ニコッと笑い差し出されたその手には、消しゴムが一つ乗っていた。

「いいの?君が困るんじゃ無い?」

「だいじょぶです。だから… はい!」

彼女の可愛さに赤くなった顔を隠すように俯くと、

「サンキュ」

と、小さくお礼をして、彼女の暖かい小さな手から消しゴムを受け取った。

彼女はにこっと笑って

「試験、頑張りましょうね。」

と言ってくれた。

あまりの彼女の可愛さに、俺は絶対に合格して、彼女と同じこの高校に通うんだ。

入学したら速攻彼女を探して告って、俺の-俺だけの彼女にする。

密かにそう心に決めた俺は、全神経を集中させ試験に臨んだ。

そして見事合格。

4月
意気揚々と入学式に臨んだ俺の目は、違うクラスの里緒菜の姿を写していた。

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