キミに伝えたい言葉がある
俺は、嬉々として病院を出た。
莉桜菜には、まだ内緒だ。
振り袖とかの準備が出来ていない今、変に喜ばせるわけにもいかない。
「あら?真司君?」
名前を呼ばれ、足を止めて肩越しに振り返ると、莉桜菜のお母さんが立っていた。
「あ、こんにちわ」
「こんにちわ。莉桜菜のお見舞いに来てくれたの?」
「はい」
「ありがとうね」
微笑むお母さんの表情は、莉桜菜に似ていて、でも、その目の下には隈もあって元気もないようだ。
心中を思えば、元気でいることなんか出来ないかもしれない。
「明日も、来ます」
「ありがとうね」
「失礼します」
俺は、頭を下げてから踵を返した。
本当は、莉桜菜のお母さんに言いたいことがあった。
でも、その言葉たちを言う権利なんて俺にはないと思った。
俺は、真剣に考えなくてはいけないと思う。
それは、莉桜菜の事もだけど、光平とのことだ。
返事は今日中にしないといけない。
オーディションを受けるか受けまいか。
莉桜菜の言葉も蘇ってくる。
彼女の言葉は、一つ一つが重みがある。
でも、それを抜きにして、俺がどうしたいのか。
一つずつ整理していったら、答えはあっさりと出てきた。
俺は、家に帰らずそのまま河原にやってきた。
光平には連絡してはいなかったが、なんとなくいるような気がした。
俺の予想は当たって、河原には光平がベンチに座っていた。
その背中は、頼りなく丸まっている。