キミに伝えたい言葉がある



俺は、椅子から立って、一度病室を出て莉桜菜の両親を探しに行った。


「すみません」


莉桜菜の両親は、少し離れた休憩室に座っていた。


「あら?どうしたの?」


やつれた様子の莉桜菜のお母さんは、俺の姿に首を傾ける。
俺は、一度口を開けて、閉じた。
喉が、震える。
でも、言わなければ。


「・・・・莉桜菜が呼んでます」
「莉桜菜が?・・・・っ」


2人は、慌てて立ち上がり駆け込むように病室に戻る。
俺もその後に続いた。


「莉桜菜?どうしたの?」


莉桜菜の手を握って優しく話し掛ける。


「おか・・さ、おと・・さ」
「何?莉桜菜」
「莉桜菜」
「あり・・がと・・・」
「っ」
「わた・・・ふたりの・・・こ、ども・・しあわ、せ」


もう、限界だった。
莉桜菜のお母さんは止めどなく涙をこぼしていた。
お父さんも、同じように。


「何言っているの?お母さんだって莉桜菜がお母さんの子どもで幸せよ」
「あり・・が・・と」


莉桜菜の眦からも涙が零れた。
そして、莉桜菜は、俺の方を見た。


「し・・んじ、」
「なんだ?」


名前を呼ばれて、俺はそっと莉桜菜の側に寄った。
お母さんに手招きされて、俺は莉桜菜の手をそっと握った。


「あり・・がと、」
「・・・俺の方こそありがとう」
「た・・しかった、おで、かけ・・・」
「あぁ、楽しかったな」
「いい、た・・・こと、ば」
「俺もあった。結局言う機会がなかったな」

莉桜菜は、小さく頷いた。
あのときお互いが言いたかった言葉。
それを言う機会はいつの間にかなくなってしまっていた。


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