幼い恋と笑われても
大人

結婚式の朝

結露で曇った窓を開け、
澄み切った冷たい空気を吸い込んだ。
なんだかすっきりする。

「おはよ」

『あ、おはよ。ごめん寒かった?』

「ううん、大丈夫だよ。コーヒーいる?」

『甘ーい牛乳いれてね』

「了解」

大人になったら
自然と飲めるようになると思ってたコーヒーは
未だにおいしいとは言えない。

『冬の匂いがする』

私がぽつりとつぶやいた言葉に
奥でコーヒーを入れる彼が反応した。

「また言ってるよ。
何となくわかる気もするけど、冬に匂いはないからね」

『ほんと寂しいやつだな』

「成はロマンチストだね」

まぁ確かに否めない。
今でもディズニープリンセスのような
おとぎ話に憧れてしまう。
大人になれば必ず私の王子様に出会えると
なんとなく信じていた。

手が痛くなっても雪で遊んでた頃は、
10歳は立派な大人だと思ってた。
10歳になった頃には、
20歳になったら立派な大人だと思ってた。
21歳で結婚して、22歳で子供が生まれる。
25歳にはコーヒー片手に仕事をバリバリこなしてる。
そんな人生が自然とくるのだと思ってた。

「はい、コーヒー牛乳」

『わざわざ強調すんな、性格ブス』

26歳になった、いま
ようやく結婚できる私はまだ
コーヒーが飲めない。

「不安?」

彼が寂しそうに私の顔を覗く。
一瞬戸惑ったが、

『まさか!』

と笑ってすぐ答えられた私は
それなりに大人だ。

もう一度冷たい空気を吸い込んだら
今度は小さなため息が出た。
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