君影草は誠を乞う
始まり

その日の夜は、
肌を刺すようなひどい寒さだった。

「これからどうしようかなぁ…」

見事なまでに真っ白な道を、
歩きながら、私、椿木 伊織はそう呟いた。
その日、私はもうとにかく、
ついていなかった。
放火によって家は全焼。
貯めたお金も、全部焼失して。
残ったものは、
財布の中少しのお金と服のみ。
そして、
夜はこれまでの中で一番の寒さ
思わず溜め息が出るほど
ついていない。

あの家はお母さんが残してくれた
最後のものだったのに……。

捨て子だった私を拾ってくれた唯一の家族。
そんなお母さんに先立たれ、はや一年。
行くあても、帰るあてもない私は、
これからのことを考えながら、
ただ河川に沿って歩いていた。

しかし、
私はまだ知らなかった。
これ以上の
不幸が、
これから待ち受けていることを…
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