続・オトナになるまで待たないで
「部屋、暗くせんほうがええ?」

と、照明のリモコンを手にゴウが聞いてきた。

「うん」

と、すぐに答えた。




元の持ち主がインテリア好きだったんだろうな。

オシャレで都会的な照明器具が、あっちこっちにあった。


ベッドルームは、うまい具合にベッドが二つあって、そのうちの一つに横になった。


ああ、幸せ。

この弾力、サイコー!


ゴウも横になった。

なんか照れ臭いな。


「し、仕事探さなきゃ」

誤魔化すように言った。


「焦らんでええで。体も万全じゃないはずやし。アンタ、3ヶ月も意識が戻らへんかって、呼吸器外すか、一生つけとく手術するかってとこまでイッテんから」

「わー、こわー」

「ホンマ、ゾッとするわ。それを決めなあかん日に意識が戻ってんて」

「えー、そうだったんだー」


なんて答えてるけど、現実感がない。

目が覚めてからの事はみんな、空から見てた出来事みたいで。


「店長、元気?」

「知らん。アンタがおらんようになってから、一回だけ会うてんけど、風邪引いたんかなんや知らん、声出えへんでな、ロクに話してへんねん」

「へぇ。私のせいで、疲れちゃったのかな」

「責任逃れや。あれやったら、よう責められへんもん」


ゴウは腹立たしげな声を納めて言った。


「アンタが責任感じることちゃう。トンちゃんに連絡したしな、会ってから話し合おうや」

「トンちゃんかぁ。懐しいな」

「トンちゃんは覚えとるん?」

「覚えてるよ。鰻おごってくれたじゃん」


ゴウが笑った。


「食べもんで覚えてるんや」


へへへ。

老人ホームを脱け出すとき、フライドチキンくれた人いたな…

あれは美味しかった……


そんなことを思い出しながら、眠りについた。
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