続・オトナになるまで待たないで
魑魅魍魎の館

妖怪チーママ

ゴウの働く店は『レッドタスク』という。

本店はショーパブだけど、

こちらはオネエがやっているクラブ……

っていっても、

クラブがなんなのか知らないけど。


レッドタスクの入っているビルは、

表とは別にキッチンに通じる外階段があった。


キッチンで働く人間は、

鍵を預かってこの外階段を上がっていく。


私が登る目の前を、

巨大なお尻が上がって行く。


ゴウの職場の先輩である、グラコロねぇさんだ。

極彩色のチュニックに身を包み(私服)

でもまだ化粧もカツラも着けていない。

これでよく電車に乗れるな〜。


「ああ、しんど。もうホンマ、こんなビル」


それにしては、登って行くのが速いなぁ。


三階の踊り場に着くと、

小さなデコボコガラスの嵌まったドアを開け、

大きな体をひねって入って行く。


私も恐る恐る入っていった。


暗い………


一瞬、体がこわばったけど、すぐに電灯がついた。


「ここら辺になぁ荷物置いて~、鍵はここに掛けて~…」


奥にある部屋も次々、明るくなってゆく。


慌てて聞いた。

「で、電気のスイッチ、どこにあるんですか?」

「スイッチ~?そこはドアのすぐ横やろ~。こっちのは、この部屋の~…」


怖いなぁ。

私がこの暗い中を越えて、電気点けていくんだ。

ヤダなぁ。



「そしたら~、もう今日は届いてんねんけど~、このフルーツを冷蔵庫に入れてな~」

「はい」

「いつもは、もっと遅いねん。今日は交通規制あるし~、先に入れてもらってんけど~」


グラコロねえさんの手、でっかい。

シャベルカーみたいに、フルーツを冷蔵庫に納めてゆく。


お酒もあるから、けっこう力仕事。


今はキッチン専門に入っているスタッフはいなくて、

姉さんたちが日替わりで担当しているらしい。


表から入らないのは、

そちらのドアだけ防犯サービスに入っていて、

セキュリティ番号を入れないと入れないからだ。


ゴウがぼやいてた。

「昔はスタッフ誰でも番号教えてもらっててんか。せやのに、今のチーママになってから『それやと防犯になられへん』言うて、まずキッチン担当が裏から入って開けるいうことになってん。中は繋がっとんねんから、一緒やっちゅーねん」


グラコロねえさんは、慣れた手つきでお酒をセットする。

「ワイングラスは分かるや~ん?シャンパンはこれな~?焼酎は基本これ~。せやけど~『鬼ごろし』いう銘柄があんねんか~。それは、こっちの竹筒で出すね~ん。こっちはウィスキー。ウィスキーもワインも~銘柄によっては、こっちの高いグラスで出すね~ん。めったに出ぇへんけどな~」


お、おぼえられるかな……


次はフードだ。

これも皿と盛り方が、客のランクによって違ってくる。

値段は決まってなくて、高い酒を注文されたら、フードも高く設定して出すらしい。

そんなアバウトな。


「要するに~『酒が出ないことには、儲からへん』いう仕組みになっとんねんな~」

「はぁ…」
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