続・オトナになるまで待たないで

ゲンちゃん

高架下の喫茶店は、ドアが開くたびカコロンリリンと鈴がなる。

この音が、空っぽの脳に響く。


「気にしてもしゃーない」

グラコロネェさんが言う。


そやで。

とでも言うように、目の前をエミリオネェさんの煙が吹き抜ける。

この人は、女装しても可愛い弟みたいな雰囲気がある人で、

あんまりしゃべらないけど、存在感がある。


しのぶネェさんが、早口でまくし立てる。

「たぁさん、最初から『今日は時間ない』言うてはってんで?ホットケーキかて要らんて何度も言わはってん、なあ?それを『原発』が引きとめやってん」

しのぶネェさんの髪、キレイだなぁ。

ツヤツヤで、直毛で。

腰まであるロングヘアが、スタイルの良さとよく合っている。

私もそろそろ髪切りに行かないと。


原発っていうのは、チーママのことだ。

爆発すると手がつけられない。

後始末も大変。

原発……アハハ。


ダメだ。

ワラエナイ。



「……レッドタスクに入って一気に老けました」

「ジブン、元からやで」

「ああ、そうだった」

「原発から放射能が出っぱなしやからな」

「イヤッこわあい。前立腺はよ取ろ」

「甲状腺やっ」


そんなスパスパ煙草吸って、肺の方が心配だよ。

煙吸いまくってる私も自分が心配だけど。

だけど、なぜか落ち着く。

仕事が終わると、みんな大体この喫茶店で一服してから帰るらしい。


分かるなぁ。

体より、頭が疲れてるんだよね。


「しずく待ってんの?」

「今日は、しずくの実家へ泊まるんです」

「へぇ。どんな家なん?あの子、賢いからフツーの家ちゃうやろ」

「先祖代々、医者らしいですよ。マンションなのに茶室もあるし」

「茶室!うっとこにもあったけど」

「ジブン、エエとこの子やん」

「せやで。にじみ出とるやろ」

「それ黒汁や」

「黒汁言うな!」

「なんのお汁出しとんねん」


すぐに下ネタ突入。

しのぶネェさんとグラコロネェさんが、バカ笑いする。

エミリオネェさんは、皮肉そうに頬を上げただけ。

この人は群れるタイプに見えないけど、いつも気だるげに煙草を吹かしてる。



カコロンリンリン


ゴウかと思って顔を上げる。

違う。

けど、見たことある。
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