続・オトナになるまで待たないで

一筋の光

薄暗いのは、すごい苦手。

いつから、こんなに嫌いになったんだろう。

引きずりこまれそうになる。


明るいとこに、集中!集中!

歌舞伎役者さんたちがハデハデの衣装で登場する。

あちこちから、掛け声がかかる。

あんなんしていいんだね、歌舞伎って。


キラキラしてますねー。

庶民のはずなのにねー。



-観音様だよ-


誰かに教えてもらった言葉を思い出す。



この世に神や仏が、本当にいるのかな。

「いる」としたら、一番苦しいときに、ぜんぜん何にも言ってくれないのは、なんでなんだろう。


少なくとも私に向かって何か言ってきたのは……


ーもう死ねないよー

ーもう死ねないよー

ーもう死ねないよー


ゾッとした。

でも止められない。

声を追わずにいられない。



ー自分からそれを選んだー


私が選んだ?

ヒトから選ばされたんじゃなくて?



だってあの状況で、生きててなんになった?



ーなんになった?ー



なんにって………

今、生きて、

そんで歌舞伎を観てるけど……

好きな人と、

その親と……




死んではいけない。んだ。




急にひらめいた。



自分から死んじゃいけないんだ。



わかんないんだ。

本当のところ。

生きてみないと。



だけど、本当に辛いときはどうしたら、良かったんだ?

生きられないと思うほど、辛いときは?



ふっと客席が軽くなった。


「海!なに食べる?」


ざわざわしてる。

軽くなって、お客さんがふわふわ立ち上がってる。



「うなぎ………」


夢うつつで答えた。


「遠慮せえ!」

今日はゴウのおごりなんだった。


「近江牛……」

「アホー!もっとアカン!」


なに考えてたか、わすれちゃった。
< 26 / 102 >

この作品をシェア

pagetop