続・オトナになるまで待たないで

オンナ稼業

あっつ。

夕方になっても

あっつぅ。


見るからに体力のないエミリオネェさんが、

私の後ろからフラフラ登ってくる。


だ、だいじょうかな?


しばらくは、二人一組で開店準備をするということになった。


昨日の事件のこともあるんだけど、

他の店舗でもボーイさんとねえさんが、

イチャついてた以上のことを

開店前のソファでやらかして、

まあ別にいいけどな、

いや良くはないやろ、

止めてくれよ、

というわけで、今日はエミリオネェさんと二人で出勤した。



昨日は、雨降って痔がカタマる

みたいになってさ、

私も生まれ変わったような心地がした。



とは、言ってもだ。



ドアを開けた途端、奥から千鶴ママが出てきた。


「おっはよぉ~昨日、大丈夫やったぁ?」


このオンナを許せるかというと、

それは無い。


この野郎。



腹たつ………


はぁと気の抜けた返事をして、開店準備を進める。



アイツ、あの男が来ること

ぜったい知ってた。



イラつきながら、ビール箱を運ぶ。


ガッチャンガッチャン!

ちくしょう……


あの男は、逃げたらしい。

でも社長が庇っているかもしれないし、良く分からない。

被害届だけは出しておいた。


でもさ、千鶴ママはどうなるわけ?

証拠はないけど、アイツに仕組まれたっぽいのに。

ガッチャンガッチャン!!



ふっとエミリオネェさんと目があった。

ヤバ私、鬼みたいな顔してる。

目をそらすと、エミリオネェさんがボソリと言った。


「うちもあった」


え?と顔を上げた。

エミリオねネェさんが、小さな声でボソボソと続けた。



「高校のセンパイに家で」


そこから、状況を説明し始めたっぽいんだけど、

声が小さすぎて聞き取れない。



「男なら誰でもええわけない。そんなことも理解できひん」



だけど、未遂じゃない。



そこまでは言っていないのに、

聞こえないのに、

それだけは分かった。



それでなんだ。

群れるタイプに見えないのに、

いつも誰かと一緒にいる。


未だにトラウマなんだ。


「みんな、理屈を言うねん」

そう聞こえた。


「ちゃうねん。そういう問題ちゃうねん」


それを最後に言葉は途切れた。

しばらくは、黙って作業を続けた。

唐突に話してしまった。


「私、死のうと思ったのに死ねなくて」


エミリオネェさんが顔をあげた。


「でも、ネ、ネェさんが本気で『大丈夫?』って聞いてくれて、か、感動したっていうか、こう、なんか心が軽くなったっていうか……」


何を言いたいんだ。


これ理屈か?


そもそも

理屈っていうのがナニか分かんないから、

理屈を言ってるのか、

いないのかが、分かんない。



「そ、そんだけっす。以上、デス」



気まずく作業に戻った。

エミリオネェさんも何も言わなかった。




あの「大丈夫?」は、エミリオネェさんしか言えない。

他の誰も言えない。

エミリオネェさん、そのものだった。



でもきっと、それが理屈。
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