続・オトナになるまで待たないで
「なんな?原発か?」
鋭い声で、グラコロネェさんが聞いた。
ゴウがうなずいた。
「なんで?」
「ゲンちゃんの支払いが…」
「ゲンちゃん、きはったん!?」
「今そんなんええ!ほいで?」
「足らへんかって……」
「それ先週のハナシちゃう?」
ゴウがうなずいた。
「さっき家族から電話がきて……これからは、カードで払わせるからて」
は?という空気が流れた。
「別にええやん、払いは一緒なんやから」
「せやけど、千鶴ママが『アンタが余計な入れ知恵するからや!』言うて」
「なんんんでや?」
「そんなんでクビ!?」
「限度額決められたら、それ以上の引き落としがかけられへんて……」
はああああああああああ!?
という声が全員の口から漏れて、
喫茶店のお客さんが、みんな一瞬こっちを向いた。
「ゲンちゃんとこ、なんぼ金ある思うてんねん」
「限度額なんて決めるかいや!」
「クビて……明日から来んでええ言うこと?」
「今月いっぱいで、て」
「アホちゃう?どーなっとんねん。それオーナーに言わな!」
ワイワイガヤガヤと、作戦会議が始まった。
でも私は違うことを考えていた。
「帰ろ」
もう一度、ゴウが言ったので
すぐに店を出た。
駅までの道を歩きながらも考えていた。
人原発、
チーママ、
千鶴子ねぇ、
ババア、
妖怪、
なんか、こういう人知ってるんだよな……
こういう、同じような感じの人………
人の形してるけど、
中身はケモノで、
人をだましたり、ごまかしたり、
すぐキレて、
自分の利益しか考えてない、みたいなさ………
福井大学か……
きっと頭のいいガッコなんでしょ。
だけど、………
「お、お、思い出したああああああ!!!」
駅にいた人間、全員がこちらを見た。
でも黙ってられない。
「アイツ!アイツだよ!あ、あ、あの、ヒョットコ!田野畑!田野畑じゃん!」
ゴウは、ポカンとした顔で私を見ている。
「『じゃん』て聞いたン久しぶりやわ」
イヤイヤイヤイヤ、そんなことどうでもいい!
「ぜったいチーママも何かやってるよ!何か分かんないけど、法律に違反するようなこと!やってるんだよ!」
「あーそういう……やってはいそうやけども」
ゴウは考え込んだ。
「クスリいうこと?」
「あれは天然でしょ」
「でも確かに、前の店ではあっこまでヒドクはなかった言うしなぁ」
「そっちじゃなくてさ………うーん、」
「あれ、甘い臭いするらしいけどな。全員、香水つけとるし分からへんなぁ」
そっちじゃなくてさ、
だってカードにしたっていうのが……
黙ってられなくて口をはさんだ。
「お金のことで、何かやってない?横領とか」
「横領……」
ゴウが言った。
「それはないんちゃう?帳簿はチーママがつけとるけど、必ずママが確認しはるもん」
そっか。
うーん、ざんねん。
でもなーんか、ヤバイことやってそうなんだけどなぁ。
「でも……さっき、雛ネェさんは数字に弱いって言ってたよ」
「ごまかしてるんかな…」
それっきり、会話は途切れた。
「就活せな……」
疲れたように、ゴウが言った。
「ついていかせて、もらいます……」
と答えた。
………………………
…………………「「「「「「「「「
ぶふぉぉっッッ!
二人して吹き出した。
「捨て猫かッ」
「まさかアタシを置いてく気!?」
「大人やろ!ジブンで考えっ」
「私なんて、生まれて5年分くらいの記憶しかないのに!まだ小学校にだって上がってないのに!」
「いつの間に5歳児になってん!」
「可愛い盛りでしょー!?」
「アホか、こんなビックサイズの5歳児いらんわッ」
なんも面白くない。
なんも面白いことなんかないのに、
二人で笑い転げた。