続・オトナになるまで待たないで
「いらっしゃいませ言うたら、必ずお客様の目を見て」

オーナーがゴウに言う。


「はいっ」


「立ち上がるとき、しずくはこう立ち上がるやろ?それやと色気がないねん。こう、尾てい骨から引っ張られるように立つ」

「はいっ」



オーナーは、ゴウを気に入ったらしい。


同じテーブルにつかせて、

いつも指導している。


いずれは、

どっかの店に行かせる気かな?


そしたら、私も連れてってなんて言えないし、

どうしよう?



前は、オンナやってるゴウが嫌いだった。

だけど、今はオンナやってる時も好きだと思う。


それくらい、

今のゴウの姿は自然だし、カッコいい。

尊敬できる人を見つけて、生き生きしてる。


オーナーのおかげだ。

すごく洗練されて、お金を払いたくなるような人間になった。


それを私は、給料もらって観ている。



私も、もっと何かなぁ。

何か自分に有ったらいいのに。

何もない。

何していいかも分からない。


オトナになるのは、ムズカシイ。



もう一度、フロアのゴウを見た。

綺麗だ。

カッコイイ。

胸が痛くなるよ。



私は、高校時代となんにも変わってない。

悲しいけど、この苦しさを手放したいとも思わない。


あの時は、ただゴウのそばにいられたら幸せだった。

幸せにひたりたくて、ゴウのそばにいた。




だけど今は、一番でありたいと思う。

でも、ありえない。

このどす黒い感情をどうしよう。

でも手放したくない。


自分が、心の底まで真っ黒になるとしても

ゴウへの気持ちを手放したくない。




ゴウと目が合う。

その目が優しく笑って、

お客さんへと戻ってゆく。



私は、この人が好きだ。



愛してる。
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