続・オトナになるまで待たないで
「あんたホンマなん!?」


出勤したての、しのぶネェさんにグラネェさんが詰め寄った。

しのぶネェさんは、すぐに輝くような笑顔を返した。


「ホンマやで~。もう春にはお式挙げるしぃ」

「家族と挨拶はしたんかいな!?」


そうだ、そうだ、よっぽどの名家だぞ!


「う~ん、それはぁ。色々調整してるけど、大事なんは私らの気持ちやもん!取りあえず考えなあかんのは、お式やな」


そう言うと、カウンターにカタログらしきものをドサリと乗せた。


イヤイヤ、ヤバいじゃん!

ぜんぜん歓迎されてないじゃん!



パステルピンクとパールホワイトな表紙。

全部、結婚情報誌だ。

みんな、それを恐々見ている。



「気持ちて。アンタ、安心材料イッコもないやん!」

「今迷ってんねーん。プリンセスラインとマーメイドライン、どっちがええと思う~?」

「ブスが何着ても一緒や!この枯れ木!」

「グラが着たら、どっちもジュゴンや。気の毒なこと言いなや」

「何ゆーてんねんッ。ジュゴンが可哀想やろ」

「うっさいわ!話が見えへんくなる!」



更衣室へ消える、しのぶネェさん。

それを追いかけるグラコロネェさん。



なにがなんだか………


店のドアが開いた。

雛ママと……




オ、オ、オ

「おはようございます!!」


続けて更衣室へ向かって言った。


「オーナーいらっしゃいました!」


ドア越しに、ざわめきが静まるのがわかった。



「おはようさん」


そう返してくれたオーナーの顔を二度見した。


は…?

え?


「これ何な?」


ヤバ。カタログ!


「衣装の参考に?みたいなことを言うてはりました」

下手な関西弁を使いながら、カタログを片付ける。

片付けながら、もうオーナーを見ないように目をそらし続けた。



オーナーが雛ねぇさんに声をかけた。


「朝礼するって言うて」


雛ママが、更衣室のドアを開け声をかける。

雪崩出るように、ネェさんたちが

「おはようございます!」

の声と共に飛び出してきた。


みんな驚いてる。

オーナーの姿を見て。

私もオーナーの高級そうな杖の柄だけを見ている。


全員、揃ったのを確認して、オーナーが挨拶する。

「おはようございます」

「おはようございます!」

こうやって挨拶すると、なぜか男ノリになる。

毎回、不思議だ。


「え〜、今日は人事異動いうんかな、そういう話をしにきました」

人事異動?

「千鶴は、昨日警察に逮捕されました」

捕まった!!

「チーママが、ああいう人柄やったん言うのは、見抜けてへんかった私のせいや。それはカンニンしてください。それで、売上にこだわらず、ヘルプに入った先でのスタッフや、常連のお客様の意見を参考にして、レッドタクスの新しい店長を決定しました」

だ、誰だろ。

「まず、今店長である雛子は、降格してヒラ。これは本人も納得してもろてます」

雛ネェさんが、かすかに頷いた。

幽霊みたいになっちゃってる。

それは、きっと降格のせいじゃない。

「チーママは、グラコロ・ドン・ローザ」

あ、そうなんだ。いいね、いいじゃん。

「そして、ママは、しずくにやってもらうことになりました」


し、し、しずく!?

ゴウが店長(ママ)!!?!!??!?


ゴウの顔を見ると、呆然とした顔をしている。

「なんの説明もなしに、発表になったこともゴメンナサイやな。せやけど、見て分かると思うけど、時間がないねん。今日から、私が付きっきりで、しずくのヘルプに入ります。入りたいねんけど、体調が許さへん時は、キラースマイルから、ヨウゼットちゃんが来てくれます」

『キラースマイル』なんて、うちと全然カンケーない他店じゃん・・・。


「納得できんこともあると思うけど、この店は若い。若いもんで続けていって欲しい。そう思ってます。こうなったら、どーしようもない。なんでも今、言うて」

いつも流れ出るように言葉が出てくるメンバーなのに、誰もなにも言わなかった。

ネェさん達が、しゃくりあげ始めた。


オーナーが言った。

「医者からは、半年や言われとる」


涙も出ないよ。

どうしていいか分からない。

あまりにもマジ過ぎて。


ガリガリに痩せたオーナーの顔を見るのが辛い。

TVで芸能人がこうなっているのを見るのだって辛いのに。


声だけは変わらず、オーナーは言った。

「花道、飾ってな!」
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