続・オトナになるまで待たないで
雛ネェさんが、

グラコロネェさんと戻ってきたのは、

雪の降り始めた、夜の11時を回った頃だった。


もうマンションには、

お店の関係者が揃っていて、

みんなでそれを迎え入れた。

「グラァァァ・・・」

と、しのぶネェさんが

疲れ切った様子のグラコロネェさんに、駆け寄った。


棺を開けた瞬間、ネェさんたちは「ヒッ!」と声を上げた。

私も驚きで声が出なかった。

水で濡れた髪が顔に引っ付いて、

顔は・・・これが本当に雛ネェさんなの?

年寄りのようにシワが寄り、

なのに変な風にむくんでいる。


エミリオネェさんは、遠くから今更のように

「見んほうがエエ」

と言ったが、グラコロネェさんは違った。

「いや、よう見とき。死んだらなぁそうなんねん。

自殺なんて、誰でも考えたことくらいはあるやろ。

そのときは、楽になれる、それで終わりやと思ってるやろ。

ちゃうんやで!

苦しんで苦しんで、苦しみぬいて死ぬんやで!」


最後は絶叫だった。


ネェさんの怒りが、私の胸に響いた。

私なんかに、できることなんかなかった。

それでも何かできなかったの?

私も死んでたら、ゴウがこれだけ苦しんだんだ。


私、かんちがいしてた。

自殺したって周りの人は、

最初はすごく悲しむけど、

いつか立ち直って元通りになると思ってた。

むしろ、生きてることのほうが、

迷惑になると思ってた。


この心がズタズタにされる感じ。

殺すのは、自分自身だけじゃなかったんだ。

もう元には戻れない。


―じゃあ、「あの人」は?―

久しぶり思い出していた。

もう一人、心を切り裂いてしまった人のことを。


次の日の葬儀には、雛ネェさんの顔は整えられ、

家族の代理人へと引き渡すことができた。
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