続・オトナになるまで待たないで
よろよろと、階段を降りた。

ようやく休憩が取れる。


「クリスマスは苦しみますや」

「もう、そんなん聞きたない」

下でケータイをいじっていたゴウが言う。


クリスマス当日は、そんなに混まないって言ってたじゃん!

どこがだよ!


ゴミが溢れちゃって、降ろしにいかないわけいかない。

営業中は、外階段を使うしかない。

ああああ~メンドクサイ。


上から、叩き落とせればいいのに!


ゴウが突然、私の肩をつかんだ。

「なに?」


ゴウの目線をたどる。

げ!コイツよくもノコノコ!


「すみませんでした!師匠!」

「アンタ、帰ってくんの早すぎない!?」

「そ、そうっすよね!本当にすみません!」


サっつんは、そそくさと歩み寄ってくると、

「もう二度とよそ見しません!」

ガバッと頭を下げた。


「知らないよ!」

「お願いします!やり直させてください!靴磨きでもなんでもします!」

「スニーカーしか履かないし!」

「アシでもメシでも何でも・・・!」

「うるさいな!アンタとは縁を切ったの!」


サっつんが顔を上げた。


ヤバッ!

コイツ、目がイッちゃってる!


「嫌です!一生、お側にいさせてください!」

「ウッッッザッッッ!!」


まだ肩をつかんだままのゴウを見た。

え、なんか全然別のとこ見てるし・・・


「俺、本当に馬鹿でした!この人しかいないって思ってたのに、取材とか受けてイキってました!カオルがいるから俺なんかいらないかなとか思っちゃって!」

「いや、ちょっ・・・」

見えないんだよ。

どいてよ。

もう!ヒトの手を握りしめるな!

「お、俺、本当にし、しょうの・・・ひぁッ!」


え???

サっつんが地面に転がった。

な、な、


目の前にオトコが立っていた。


見た瞬間、全身の血が逆流した。

全部の時間が停止した。



「コイツ、引っ張っていい?」



しゃべってる・・・


ゴウも私も動けない。



ドヤドヤと上からネェさん達が降りてきた。

「シズク〜、お客さん待ってはるで~・・・」

「え、誰や?」

「サっつんおるやん!」


私達のただならぬ雰囲気に、ネェさんたちも止まった。

間抜けな歌声がどこかから聴こえる。

なんて言っていいのか分らない。


「誰なん?」

「カッコようない?」

「むっちゃ男前」

「サっつんは、なにをしとんねん」


目の下方で、サッつんがソロソロと起き上がるのが見えた。

「俺にも分らないです・・・」

「アタマでも打ったんか」

「往ね、オマエ、はよ」

「い、いや・・・」


突然、ゴウがバタバタと階段を駆け上って行った。

泣いてた気がする。

すごく、すごく、嫌な反応だ。


やめてよ。

今さら嘘でしょ。

なんで?

もう終わったことじゃなかったの?


泣きたいのは、私のほうだ。


この人に、

追いつめられ、

助けられ、

突き落とされて、

生かされて、

今また、一番大切なものを

奪われそうになっている。


肩が震えた。

感謝の言葉なんか出なかった。

地面の底まで、引きずり込まれそうだった。

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