続・オトナになるまで待たないで
思わずうつむいた時、

影が私を覆った。


見上げると同時に、松井さんの腕が私を包んでいた。

それ以上、何かをする気はないみたい。

ただの、再会の抱擁という感じだ。


心配かけちゃったなぁ。

なにか言ったほうがいいのかな。


そう思いつつ、無言でいた。

ずいぶん経ってから、腕が離れた。

なぜか、すごく寂しい。


松井さんが、口を開いた。

「そんなに頻繁に、時間が作れない」

その言葉も寂しい。

伝わっちゃうのが分かってるんだけど、

取り繕えない。


私、ずいぶん気を張って生きてたんだ。

知らんかった。


「そんな顔するなよ」

また空気が張り詰める。


なんか言わなきゃ。

起死回生の一言を。

しかし、出てきた言葉は、

「つまんない・・・」

だった。


微妙に自分の気持とズレている。

でも何か言わずにいられない。

「つまんないつまんないつまんない!つまんなイーーッ!!」

不機嫌なまま、松井さんを見つめた。

ええ、そうですよね。

そういう顔になりますよね。

ワカッテマシタ!


しかし、松井さんは膝に手をつくと、

耐えきれなくなったように笑い出した。

この人が、ここまで笑った顔を見るのは初めてかもしれない。

「こ、ここ、壁薄いから・・・マジで、ヤ、ヤメて」

と言いながら、大笑いしている。


そんなに笑って息できてる?

って、心配になるほど笑ってる。


「なるべく来るよ」

息も絶え絶えに、松井さんが言った。


まだ暴れたりない。

でも、この顔を見れたから

まぁまぁ満足した。
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