続・オトナになるまで待たないで

観音さま

ゴウがいってしまっても

私はレッドタスクに居続けた。


ところが5月末の定期検診で、

「もうあきまへんわ。すぐ入院せな」

と言われ、即日入院となった。


「はあ」

デッカイため息が出る。


取りあえずは、

血栓を溶かす薬を投与されているけど、

手術できるかは精密検査を受けてから、

決めるんだってさ。


「はーあ」

「二酸化炭素を吐き散らかしなァ」


グラコロネェさんが、手早くハッサクを剥く。

同部屋の患者さんが、ネェさん三人組に体を強張らせている。

ゴメンなさいね。

喫茶室にでも移動したいけど、アタシ絶対安静なもんで。


「誕生日に、焼肉行くはずだったのに・・・」

「焼肉どころちゃうやろ。アホやな」

「近江牛、食べたかったなあ!」

「うわっ!白々しい!ホンマはカレシと出かけるつもりやったんちゃーう?」


カレシね・・・

あの滅多に会えない。

会えても数時間のカレシね。


「なんちゅー顔しとんねん。百年の恋も冷めるっちゅーねん」


しのぶネェさんが、目を輝かせて身を乗り出す。

「なぁなぁ!冷めたらカレシちょーだい!」

「ホンマ、アンタもうっ。毎日サッつん追いかけ回しとるやろっ」

「どないしょ。迷うなぁ〜」

「向こうは、人生に迷とるわ」


エミリオネェさんが、ようやく口を開いた。

「だいじょぶなん?」

「今、検査中で、どうなるかは分らないです」

「カレシは何て?」


あーあ、考えるとアタマが痛くなる。

思い切って答えた。

「・・・あのカレシ的な男は、千葉に帰って来るように言ってます」


冷やかされると思ったのに、グラコロネェさんは当然という顔をした。

「結婚したらエエ」


そんな簡単に・・・

思わず口を尖らせた。

「結婚のことなんて、何も言われてませんよ」

「考えとるに決まっとるやないか。そんなん考えんと、帰って来いなんて言うかいや」

「こんなんで結婚って決まるもんなんですか?」


しのぶねネェさんが、したり顔で答えた。

「結婚はなぁ、思い切りやで~?」

「ブーのは、水のないプールに思い切し飛び込んだだけやけどな」

「愛があれば、泳げんねん」

「血まみれになっただけやがな!」

「血とぉ涙とぉ汗とぉ・・・」

「鼻水と鼻血とキレ痔でな!泳いだな!」


この先人はんは、マジでどーしようもない。

しかし、さすが家庭持ちのグラコロネェさんは知っていた。

「手術するのに同意書、書かなあかんやんか。書く人が必要やろ」

「はい。そーなんです」

「近江牛どころのハナシちゃうやん。エエから入籍してしまいィさ」

「はーあ・・・」

「スタート地点に戻るなッ」


エミリオネェさんが、のそっと言った。

「カレシ、警官なんやろ?」

「そうですよ」

「ジブン、公務員と結婚したがってたやん」

「そうですよ?」

「警官は公務員やで」
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