続・オトナになるまで待たないで
松井さんが、私の泊まっているホテルへやって来た頃には、

もう0時を回っていた。


「遅くなって、悪い」

「ご飯は食べてきました?」

「食べた。そっちは?」

「食べましたよ」


それから、体調のことや原さんのこと、

お店の様子なんかを話した。

でもモノ足りない。

こんな事を話してて、なんになるのかな。


この数ヶ月、

離れている間も

松井さんの存在を嫌というほど感じた。


これからの人生を送るのに、

松井さん無しというのは、

現実的にあり得ない。


なのに実際に会ってみると、

透明な壁がある。


破ってみたい。

同じ想いの強さを持っているこの人なら、

もう構わない。


ふっと部屋が、静かになった。


「・・・してみてください」


松井さんが苦しげに私を見つめた。


「真面目に言ってる?」

「言ってます」

「よく、考えて言ってんのか?」

「考えてって?」

「俺は夏海が他の男を好きなのは耐えられない。本気で大事にしたいと思ってる。なのに、あそこで幸せに暮らしてるのを握りつぶしたい。その意味が分かってんの?」

そんなの分かってる。

という意味で頷いた。


私だって、ゴウが他の男を好きになるのは耐えられない。

それでも側にいたかった。


でも松井さんは、苛ついた様子で立ち上がった。

「分かってない。俺は自分で自分が怖い。頼むから、今そんなこと言うな」

私も立ち上がった。

「じゃあ、いつ?いつ言うんですか?なんか知らないけど!松井さんが怖気づいてる間に、私が別のオトコを好きになってもいいんですか!?」

松井さんの目が、怒りに染まるのを見た。

でももう怖がらない。

「私は成人してるんですよ?北海道だって、ネパールだって行けるんです!そこで、他に好きなオトコが出来ても良いんですか!?」

今までにないくらい、松井さんを怒らせている。

それでも止まらなかった。

「いつまで!?いつまで松井さんは待つつもりなの!?」

「止めろ・・・」

「松井さんは変わった!私ももう高校生じゃない!」

「止めろ!」

「オトナになるまで待たないで!!」


そう絶叫した途端、ガっと体の自由が奪われた。

重くて、熱くて、苦しくて、

すでに怖い。

松井さんの言っている意味が、ようやく分かった。

ネェさんたちの話を聞いて、分かってる気になってた。

でも現実は、次元が違う。


「ま、松井さ・・・」

「冬馬だろ」

その声は、まだ怒ってはいたけど優しかった。

少しだけ力が抜けた。


「ゴメンネ」

情けない声で謝った。

「まさか、怖気づいたんじゃないだろうな・・・」

「トーマくん」

ハッとした息づかいの後に、深々と息を吐き出すのが聴こえた。

「長かった・・・」


キスが、かぶさってきた。

あったかい。

その熱に、身をゆだねた。
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