いつかきっと忘れるけれど、傷はすぐには癒えなくて。

写真立てを手に取って、捨ててしまおうと考えた。いくら何を捨てたって、これを捨てなきゃ終われない。

……そう、思っているのに。

手が動かなかった。ゴミ袋を掴みたくなかった。
これを捨てたら本当に終わっちゃうんだ、と心がセーブをかけた。

実際はもうとっくに終わっている。

彼が出ていったさっきから。
彼が浮気の弁明をしなかったあの時から。
彼が浮気をしてしまった瞬間から。

それでも、まだ私の中では終わらせられていなかった。傷はまだふさがり始めてもいない。慎重に水で洗って、優しく消毒をして、絆創膏をつけて。そうしてやっと、ふさがり始めるのだ。


私は、ゆっくりと写真立てを元の場所に戻した。申し訳程度に逆向きにしておく。今はまだ、これしかできそうにない。

それでも、いつかはこの写真を容赦なく捨てられるくらい幸せになれたらいい。彼のことを忘れられるくらい楽しい日々を送れたらいい。そう思う。

まだそんな日々は遠いかもしれない。傷はすぐには癒えないだろう。そうだとしても、いつかきっと忘れてしまえる日が来るように、これからは前を向くしかない。


ゴミ袋の口を固く結ぶと、私はそれを玄関に置いた。そこで、ふと思い出す。そういえば、結局指の傷に絆創膏を貼っていない。うっかり忘れてしまっていたのだ。

とりあえず手を洗い、リビングに戻って救急箱を開ける。そして、消毒液をつけて消毒し、丁寧に絆創膏をつけた。この指の傷は、いつごろふさがるのだろうか。


傷はすぐには癒えない。傷跡は完全には消えないかもしれない。そう知ってはいる。それでも、いつかきっと、心の傷がふさがる日を私は待っている。



Fin.
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