いつかきっと忘れるけれど、傷はすぐには癒えなくて。
同居しようと言ってくれたのは、去年の春。
実家を出ようか迷ってる、と私が言ったのが発端だった。
私の職場の近くにマンションを借りての二人暮らし。好きな人と朝から晩までいるという生活は、新鮮で単純に楽しかった。
赤と青の並んだ歯ブラシ、ペアのマグカップ、旅行先での写真。
たったそれだけのものが愛おしくて、この部屋に帰ってくるだけで幸せで。
こんなに幸せだと現実じゃないみたい、なんて冗談めかして言えば、俺もそうだと彼は笑う。とても優しくて綺麗な笑顔だった。
しかし、世の常として楽しいことは続かないらしい。
最底辺まで下がれば後は上がるだけだ、と言う人がいるが、私の場合真逆だった。もっと貪欲にこれ以上幸せになりたいと思っていたら、何か変わっていたのだろうか。なんにせよ、今となっては後の祭りだ。