いつかきっと忘れるけれど、傷はすぐには癒えなくて。


「その、俺はここから出て行くから」

最後を濁して言ったのは、言葉を発さない私の真意を読み取りがたかったからだろう。二人で暮らしたこの部屋をどうするかは、私が決めなければならない。


「……私はここで暮らす。一人暮らしする」

私が俯いたままそう言えば、彼は分かったと頷いた。



既に荷物は纏めていたらしく、すぐに彼は出て行く支度を終えた。元々物をあまり持たないタイプの人なので、大した量ではない。大きなキャリーバッグひとつと、ボストンバッグひとつで足りたようだ。


最後に彼は、私が座ったままのリビングに顔を出して、別れの言葉を述べた。

「今までありがとう。……ばいばい」

そのシンプルさは彼らしかった。

「うん、ばいばい」

それに対する私の返しも、とても私らしかった。



彼がリビングから出て行き、玄関のドアの閉まる音が聞こえた瞬間が、私たちの全てが終わった瞬間だった。

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