いつかきっと忘れるけれど、傷はすぐには癒えなくて。



そして今、ここに至る。私はまだリビングから動いていない。立ってすらいない。

なんだか今は全部が面倒だ。でもこうやって一人で俯いているのだって、それはそれで疲れる。何かしたい。気が紛れて、スッキリできる何か。


その時、ふと机に散らばったチラシが目に入った。

そうだ、掃除をしよう。
普段はどうせなかなかやる気が起きないのだから、こんなときにやってみるのもありかもしれない。

私はゆっくりと立ち上がり、初めに洗面所へ向かった。



洗面所は掃除をあまりしない場所で、結構汚れが溜まっているのを知っている。今までは見て見ぬふりをしてきたが、いい機会だから綺麗にしてしまおう。


まずはいらないものをゴミ袋へ。
使い終わった歯磨き粉の容器、もう使っていない剃刀、壊れた洗濯バサミなどをどんどん捨てていく。なんとも気分がいい。いらないものを手放す快感はなかなかのものだ。


と、そこで赤いものと青いものが目に入った。歯ブラシだ。

二本セットになっていたのを、私と彼の二人で使っていた。寝ぼけた彼が私の歯ブラシを使おうとするのを止めたのは、一回や二回ではない。その度に彼は笑ってごめんと言った。
その笑顔が私は大好きだった。


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