いつかきっと忘れるけれど、傷はすぐには癒えなくて。
当たり前だが、出て行くときにわざわざ歯ブラシなんて持っていかない。
全て終わったと思っていたのに、彼の痕跡はまだこの部屋に残ってしまっていた。
胸がぎゅっと締め付けられる。言っても仕方ないが、立つ鳥跡を濁さないでほしかった。
この歯ブラシは、絶対に捨てなくてはならない。
そう思って青い方へ手を伸ばした。……掴んだ、のに捨てられない。さっきまでの勢いはどこへやら、たった一本の歯ブラシに苦戦してしまう。
そんなものに執着してしまうような女だったか、私は。
それから逡巡し続け、やっと覚悟を決めたのは3分ほど経った時。
ゴミ袋の上でゆっくりと手を開けば、青いものが私の恋心の欠片を纏ったままゴミの中に消えていった。
終わってしまえばなんとも呆気ない。何にそんなに執着していたのかを問いたくなるほどだ。しかし、私の中の一部が消失してしまったのも確かなことだった。