いつかきっと忘れるけれど、傷はすぐには癒えなくて。
台所を終わらせ、リビングに向かうと、机の上のチラシがそのままだったことに気づく。いるものといらないものとで分別して捨てようとチラシの束を手に取れば、目に入る結婚式場のチラシ。
つい、ぐしゃりと握りつぶしてしまった。
ああ、やめてよ、こんなときに。
結婚なんて言葉、今の私にとっては地雷でしかない。
式場の人に悪意なんてあるわけもないけれど、それがむしろ逆に辛かった。幸せそうに笑う花嫁の姿も、王子様のような花婿の姿も、まるで私の傷に塩を塗るための道具のよう。
見ていられなくて、他のチラシもろともゴミ袋の奥に押し込む。その時にチラシの端が私の指に小さな傷を作った。赤い血が滲んで、ちょっと痛い。だけど、そんなものより心の方がよっぽど痛くて、今更ながらにどれだけ傷ついていたかに気づいた。
男女が別れたときなんかにハートに亀裂を書くけれど、あれは随分と適切な表現だ。今の私はまさにあんな状態である。割れたところから溢れだしてしまったものを、掬っては捨てている。その虚しさは、これ以上ないほどだった。