breath
周囲の音が全く聞こえないくらい、私は集中して彼の姿を追う

心のどっかで『こっちを見て欲しい』

本来なら私は彼の婚約者

携帯でサッと電話をして『ここにいるよ』って言えばいいだけなのに、それができない……

小心者なのか、仕事中の彼を邪魔をしてはいけない思っているのか……

いろんな邪念はあるけれど、私は一途な思いで彼の姿を見つめる


あれっ?彼が立ち止まった……


ーーーー私に気づいたのか、こちらに手を振っている

めちゃめちゃ嬉しく、感情が込み上げて目に涙が浮かんでくる

私が手を振り返すと、彼はこちらに向かって来て店内に入る

私のところに来た彼は

いつものような爽やかな笑顔を向け

「仕事終わったの?」

って聞いてくるので「はい」ととびきりの笑顔で答える

胸がコクンと鳴る

私は彼に何かを期待している

ーーーー彼は……樹さんは答えてくれる?

樹さんは何も言わない。ただ私といるこの空気を共用しているだけ
< 198 / 657 >

この作品をシェア

pagetop