breath
「被害者か?君はこの証拠のない現実を持ってきて何を望んでいるんだ?」

「ーーー樹さんとの結婚です」

「樹には婚約者がいるのにか?」

「はい……。私は彼を愛しています」

「坂口と不倫をしているのに?」

「別れました」

「樹とはいつから、どれぐらい交際していた?」

「9月の終わりから10月まで」

「別れた原因は?」

「樹さんから切り出されました」

「そうか。お腹の子は坂口との子じゃないと言いきれるか?」

「ーーーはい……」

淡々と常務は仕事のように感情を込めないで質問を重ねていく

常務は厳しい人だと聞いたことがある

実の父親だとはいえ、樹さんを一切かばうことはしない

事実確認をしているだけ

この場で婚約者である私が相応しいとか、子を身ごもっている藤崎さんをどうこうするとか一切口にしない

お腹の中の子が樹さんの子であるならば、確実に私は切り捨てられる

そんな不安がよぎる
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