breath
ドアの向こうの部屋の中で話は続いている

言葉は耳には入ってきているけど、頭の中には入らない

私は溢れてきている涙と格闘するだけが精一杯で、部屋の中に入り、樹さんとともに戦うことなんて微塵たりとも、その時は考えられなかった

その時の私は邪魔な存在で、私がいなければ丸く収まる……って事しか考えていなかって、身体中に響く動悸と不安に耐えるだけで精一杯だった

高宮家の人達は自分たちの事で精一杯で、ドアの向こうで私が泣き崩れているなんて思わないだろう

私は……

前回のように誰かが助けてくれる訳ではない

ここでずっと泣き崩れているだけでいいのだろうか?

ーーーこんな惨めな姿を誰にも見られたくない………

特に藤崎さんに

このドアから出てくる勝ち誇った彼女の顔なんて見たくない

泣き崩れて、酷い顔の私を見られたくない

私は壁をもたれながら立ち上がり、ヨタヨタと玄関に向かう
< 269 / 657 >

この作品をシェア

pagetop