breath
ドアがバタンと閉まり、部屋には私と樹さん二人きり

俯いていた顔を上げ樹さんの顔を見る

二年ぶりに会った樹さんは以前よりも少し痩せシャープな体付きになり、目つきが鋭くなっていた

身体中の血液が心臓に集まっているように、胸が痛い

ーーー仕事をしなければ……

「社長秘書の望月と申します。今後とも……よろしくお願いいたします」

他人行儀な挨拶をし、ソファーに座るように促す

しかし、樹さんは座らない

そんな樹さんの行動が……私の気持ちを取り乱す……

この場から逃げなければ……私の中の危険信号が点滅する

「お茶を淹れてきますので……失礼いたします」

お辞儀をしてこの部屋を去ろうとした時、ガシッと腕を掴まれた

「ーーー明日美……」

樹さんは昔と同じ声で私を呼び、私の身体を覆う

ーーー私は彼に抱きしめられている

二年前と変わらない匂い、そして感触が……忘れかけていた…いえ、忘れようとして心の片隅に閉じ込めていた思いがこみ上げてきた……
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