breath
買い物を終えてスーパーから自宅マンションに行く数分間、車内にいる私達は無言だった

私は泣きたくて、泣きたくて惨めだった

駐車場に車を置き、エレベーターに乗ろうとする樹さんに

「お疲れ様でした」

と声をかけ、階段に向かおうとすると

「明日美……話がしたい……」

樹さんに引き止められる

その話はきっと真実が語られる……そう瞬時に察した

ただ……今の私は心の準備ができていない

心の鎧が少し乱れている

それを整えてから聞こう

真実は一つしかない

いつまでも、逃げてばかりではいけない……のはわかっている

「それは仕事の話ですか?」

今にも泣きそうなのを我慢しながら言う

ーーーたぶん……鼻声になっていないと思う

「いえ、プライベートの話です」

彼はそう言いながら、私の手を握った

久しぶりに感じる彼の感触にドキってするけど、今、そんな感情を持ってはいけない
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