breath
「申し訳ないのですが、先に社長の食事を作らなければいけないので、今はいたしかねます」

そう言うと、同時ぐらいに来たエレベーターに引っ張り込まれた

私はどうすることもできず、私の部屋がある2階と、これから樹さんが住む10階のボタンを押す

あっという間に二階に到着し、私は握られている手を離し、逃げるようにエレベーターから出て行った

樹さんは追いかけては来なかった

「家庭のある人なんだもん。仕方ないよね……」

降りたエレベーター前で、一人呟く私

我慢していた涙がこみ上げてきた

ーーー私が心に纏っていた鎧は脆く、あっという間に崩れてしまう

私は重い足取りで自分の部屋の鍵を開け、玄関を開けると同時にタタキの上で泣き崩れた

私の前には深い闇があるような……

二年前の、克服したはずの不安な思いが押し寄せてくる

ーーーツライ……

どうしよう……

私は……バッグから携帯を取り出し、震える手でメッセージを打つ
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【体調が悪いので、夕食が作れません】

用件だけの内容

差出人は社長

私は送った後、は泣くだけしかでず、その後バイブで着信を知らせているスマホの存在なんて気づきもしなかった


それから、どれだけたったのだろうか?

泣きすぎて時間の感覚がわからない

カチャってドアが開き「大丈夫か?明日美」という社長の声が聞こえて、抱き上げられた

「ーーーすいません……」

社長の腕の中で見上げる彼の顔は、二年前と同じように私を心配している顔

「社長……仕事は……?」

「きりがよかったから帰ってきた」

それだけ言って彼は私を抱き上げ、リビングのソファーに連れて行く

ソファーにバサッと置かれ、社長はどこかに電話をしている

「俺。今日は遅くなる。望月さんの食事は断ったから、一人で外食をしてくれ」

用件だけ話して電話は切られ、社長は私の隣に座り抱きしめる

たぶん……彼は……私が泣き止むまでこうするのだろう
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