breath
仕方なくトボトボ帰る
一つ救われたのはハルちゃんはまだ子犬なのでそんなにガツガツ散歩をするタイプじゃないこと
どちらかというと少し外慣れをしたかなという程度だったので、この短い時間で良かったみたい
家に到着するとお母さんがキッチンでお母様と並んで料理を作っている。
この家で慣れていない他人行儀な私と違い母は我が家のように遠慮なくキッチンを使っている
「明日美の好きな手作り餃子よ。樹くんやお父さん達は明日も仕事があるから、ニンニクは入れられないけどね」
キッチンから聞こえる大きな声がリビング中に響いている
私の為にワザワザ作りに来てくれたんだとうと嬉しくて涙がホロリ
私も手伝うと言ったけどダメって断られたので仕方なくハルちゃんと遊ぶ
リビングに樹さんがいないことに気づき彼の部屋に行ってみるとパソコンを開いて仕事をしていました

子会社の売却を決めた直後なのに有給を取ってここにいるなんて。普通ではありえないし私の為に無理しているのは明らか。迷惑をかけてばかりで申し訳ない
ノックもしないでドアの隙間から覗いている私に気づいたようで視線がこちらに向けられる
彼は私の方にやって来て部屋に入るように促す
久しぶりに入る樹さんの部屋
最後に入ったのは二年前のお正月で、藤崎さんが突撃してきたあの時
部屋に足を踏み入れると当時と何も変わらないのがよくわかる
「ごめんなさい。無理をさして」
「俺がそうしたいから。それに売却が決定したから俺が会社ですることはほとんどないんだ」
「ほとんどない?」
「そう」
「実際の俺の籍は本社にあって子会社には出張扱いなんだ」
「そうなんだ。知らなかった」
「つまり加藤社長を説得するための特命って事ですか?」
「明日美は匠さんのそばにいるから、何でもお見通しなんだね。まあそんなとこ」
口が軽いのもビジネス上どうかと思うけど婚約者の私にも話してくれないのね
私が社長秘書だから口を割らないのもわかる
たぶん樹さんの位置づけでは私の存在は仕事上では必要とされていない
そういえば気になっていた事が一つ
「社長秘書はどうなっていますか?」
社長は私がいなくても大丈夫なのはわかるけど、誰かを置いているのは想定できる
「本社から溝口室長が来てくれているよ。売却が決まったからこれから正念場だしね」
会社の一大事の時に病気になり、仕事に穴を開けてしまった私
本当に最低だ
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