breath
翌日の午後
内線が鳴り美奈子先輩が取る
「望月は席を外しておりますのでご用件を聞いておきます。そうですか。失礼いたします」
私宛ての内線
宣言どおり先輩は私を電話に出さない
居留守
私の元に来て「専務から」と囁いて席に戻る
専務の用は何?
仕事上、直接の繋がりはないのでたぶんプライベート
一社員不在ぐらいで用件を言わないところが確実に仕事じゃない
戻ったら電話をする指示もない
空いている時間に思いついて電話をしてきたのだろう
たぶん私はまだ狙われている

就業時間終了後
総務は基本残業がない
帰り支度をした美奈子先輩+総務の女性社員3名が私の背後にズラッと並ぶ 
「行くよ!」
連れて来られたのは昨日と同じ居酒屋
予約をしていたようで名前を言うと個室に案内
女性は美奈子先輩を含む総務の先輩3人と後輩1人
いわゆる合コンらしい
相手は早坂さんとその同僚の営業二課の皆さん
10分後に到着
受付をしていた時から知っている人ばかりでホッとした
ちなみに私の隣に座ったのは同期の豊田君
同期と言ってもほとんど話したことはない
何度か飲み会で一緒になったことはあったのに
美奈子先輩の男よけが原因だったんだけど今日は以前のようにそれすらする気配がない
今までとは違うのでついついアルコールが進みそうなので自重しなきゃ
「望月さんの本社復帰を祝して乾杯!」
早坂さんの音頭で始まる
「戻って来てくれてうれしー」
軽いノリの営業の皆様
口を揃えて言ってくれる
仲間に囲まれての楽しい時間に楽しいお酒
子会社にいるときは全くそういう機会はなく、あったのは社長と二人っきりの世界
病上がりの私に取ってはその空間が心地良く救われていたところもある
樹のお父様のお陰で鳥かごを出た私はやっていけるのだろうか?
「望月さんとは同期だけどほとんど話したことはないよね。いつも周りに先輩達が見張っていて俺にとっては高嶺の花だったんだよ」
「そんなことないのに」
「彼氏いるの?」
答えられない
今の私にとって樹は彼氏?
最後にあった時は樹はそう言っていたし私もそう信じていた
返事がいない私に豊田くんは
「やっぱりいるんだ」
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