breath
エレベーターで専務室がある最上階に向かう
手前の秘書室で連絡を取ってもらいドアの前に立つ
嫌だな
会いたくない
深呼吸をして気を落ち着かせてからノック
「どうぞ」と専務の声が聞こえる
久しぶりに聞く懐かしい声
少し前まではこの声が心地好かったのに、今はそんな気持ちすら湧かないのはこの前のことがあったからだろうか?
憂鬱な気持ちを隠しながら「失礼いたします」と部屋に入る
入ると社長に促されてソファーに座る
部屋の中には私と社長の二人っきり
秘書の姿はなかった
「久しぶりだな。仕事はどうだ?」
「まだ慣れてはいませんが覚えることが多いので」
「そうか」
「内線にかけると席をはずしているようだが」
「あの仕事は」
焦っている私は話題を変えようとしたけどそれは無駄だってようで
「上司に確認したら席を外すような仕事は与えていないと言っている。どういうことだ?」
言い訳ができない私は俯くしかできない
沈黙の時間が続く
沈黙の時間に堪えれなくなった私はチラッと上目遣いで専務を見るとギロッと冷たい視線で睨まれた
怖いです
「それに終業後も遊び回っているらしいじゃないか。営業、経理、経営企画室、それから」
何で私のプライベートの事を知ってるの
もしかして調べさせた?
自分で調べる人じゃないし
ある意味怖い
「すいません!」
今は専務秘書じゃないし居留守も折り返し電話をする旨は伝えているけど折り返しの連絡はいらないと言われているから謝らなくてもいいはずだけど
つい癖で謝ってしまう
専務の姿が目に入るけど腕を組んでいて睨んでいたら威圧感あります
「謝罪を求めているわけじゃない。明日美は何がやりたいんだ?」
何がって言われましても、ただ誘われるまま付き合っているだけ
目の前にいる専務にこんな言い訳が通じるだろうか?
絶対通じない 
社長は返事ができないモジモジしている私を見て溜息を一つ
「そろそろ俺の元に戻って来なさい」
「まだ異動して間もないですし。総務の仕事もやりがいがあって」
「ダメだ。今日からここにいなさい!」
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