breath
「荷物も少ないし、殺風景な部屋ですよ」
「明日美がこの1ケ月、どういう風に生活をしていたのか見てみたい」
優しく笑う樹は、いつの間にか私の右手を繋ぎ優しく微笑んだ
その時の私は、単純に樹はそう思っているのだと思っていた
私が今、住んでいるのは家具家電付きのマンスリーマンション
いつまでここに住むかも決まっていなかったし、職が決まってから職場に通いやすい場所に引っ越そうと思っていたから、ここの荷物の私の私物はスーツケース1個分だけだ
部屋に入った樹は、生活最小限のものしかない私の部屋を見て
「寂しかっただろう?」
って聞くけど伯父さんや従兄弟が構ってくれたので、そんなこと全く思わなかったと答えた

さて、最終の新幹線の時間も迫ってきたからそろそろここを出ないといけないのに、樹はドーンと机の前に座って一向に動く素振りを見せない
しびれを切らした私は
「そろそろ帰らないと・・・」
樹は私を自分の元に引き寄せ、唇で強引に言葉を塞ぐ
もしかして私の部屋に来たのは帰らないため?
仕事は樹の部署の勤務形態ははフレックスだから、急ぎの仕事がないのなら少しぐらい遅
れて行っても構わない
例えばここに泊って明日の始発で帰っても間に合うはず
もしかして樹は、そうしようと思っている?
唇が離れ、樹はまっすぐ私の方を向き
「二人のこれからの事を考えたい」
「これからの事?」
「そう、今度来るときに書類を揃えておくから入籍をしよう。結婚式は落ち着いてからでもいいか」
少し急ぎ過ぎていませんか?
今日プロポーズして、来週ぐらいには入籍
私の意見は聞いてくれないのですか?
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