大事にされたいのは君
それってもしかして…と、頭によぎった嫌な予感の答えを、彼女はすぐに寄越した。
「このまま結婚するのかなって思ってたのに…仕方ないのは分かってるけど、こんな事ってあるんだなって。まるで映画のワンシーンみたいだなって思ったよ」
「……」
「だってご両親が亡くなるなんて、妹さんの面倒を見る事になるなんて、そんなの誰も思いもしないじゃない?…仕方ないの、お兄さんは悪くない。あなたが独り立ちするまでは、なんていうハッキリしない期限を待てない私がいけない」
「……」
…そうか、やっぱり。やっぱり答えは私だ。
私のせいだ。
「あなたが育ち上がって、ちゃんと幸せになるまでは結婚しないんだって。素敵なお兄さんだね。そんな彼だから好きになったのに…仕方ないね。私はそんな何年先になるのかも分からない約束は出来なかった」
遠い目をして語る彼女は、すでに思い出を語るように話していた。彼女の中で終わらせた事ではあるのだろう。仕方ないと繰り返した彼女は、一体今まで何度それを繰り返してきたのだろう。私が兄と暮らし始めたのは一年と半年程前。この一年半の間、彼女はきっと何度も何度も繰り返してきたはずだ。
「…ごめんなさい」
これは、彼女の幸せを台無しにした事への謝罪だった。
「……ごめんなさい」
そしてこれは、幸せになるはずだった兄へ。私が居なければ何事も無く全ては丸く収まった話だった。両親が死んでしまったとしても、兄が私の面倒を見なければ良かっただけの話。私が私だけで生きる力があれば良かった、それだけで兄と彼女は幸せになれたのに…
「いいの。今はもう同僚として上手くやってるし、別に彼氏も出来たし。やっと区切りがついたなぁと思ったらふとあなたの事を思い出して、どうしてるのかなって…ほら、お姉さんになるつもりだった訳だし」