大事にされたいのは君
こんな所に居たって何もならないのに、もしかしたらを期待しているのだと分かったら、そんな自分がどうしようもなく汚くて嫌だった。また私は自分の事しか考えていない。もしかしたらまだ彼が居るかもしれない、だなんて。彼の目に止まれば、何か言葉を貰えるかもしれない、だなんて。彼にこれ以上は求めてはいけないのに。それでも、
「…吉岡さん?」
その声に顔を上げると、途端に溢れ出すものを止める事が出来なかった。
「…せ、らくん…っ」
ーー助けて
私の言葉に、彼の顔色が変わった。
「悪い、先帰って」
そう一緒に帰るはずだったであろう友達に告げると、おいでと、彼は私の手を引いた。「おーい、瀬良ー!」と呼ぶ彼らの声も無視して、ずんずんと進んでいく彼に私は戸惑いから声をあげた。
「せ、瀬良君、どこに…っ?」
「家」
家。それはつまり、私の、
「い、嫌だ…帰りたくない…帰れない、の」
「うん。だからうち来て」
「…え…?」
思わず足を止めた私に、瀬良君も同じく足を止めた。そして私の方へと、彼が振り返る。
「うちでゆっくり話してよ」
ゆっくり伸びてきた手が私の目元を拭って、優しく頬を撫でていった。
「行こう」
そう私に優しく促す彼は、まるで昔の瀬良君に戻ったようでーー彼の手を強く握って、嬉しさから泣きそうになる自分を戒めながら後ろをついて歩いた。