大事にされたいのは君

広いリビングは一面ガラス張りで、奥にあるアイランドキッチンの方に私の持ってきた食材を冷蔵庫に詰める瀬良君が居た。どこでも好きに座るように言われ、大きな革張りのソファーがある方ではなく、彼のいるキッチンの手前にあるダイニングテーブルの一番端の席に腰を下ろした。どうするのが一番良いのか分からないまま、結局ここに居る自分のこの先の行方がさっぱり分からない。

ことりと、目の前に置かれたカップからは柔らかな湯気と優しい香りがたつ。「それ、この間貰った紅茶なんだけど気に入っててさ」と、同じものを手に向かい側に座った彼は、自分のそれを口に運ぶ。同じように私も一口飲んでみると、じんわり広がる温度と香りにホッと身体の力が抜けた。私の様子を見た瀬良君は嬉しそうに、「美味しいよな」と、私に微笑みかける。

「…うん。美味しい」

じんと、胸に響いたものにまた込み上げるものを感じたけれど、必死に抑え込んだ。

「…瀬良君、紅茶好きなの?」

震えそうになる声をなんとか整えて、思いついた何気ない疑問を口にする。どうにか心を落ち着かせないとと思った上での行動だった。

「あー、そうだなぁ。好きなのかなぁ」

そんな彼から返ってきた曖昧な返事に首を傾げると、「貰ったのたまに飲むくらいで、普段からよく飲む訳では無いからさ」と、詳しい訳ではないのだと眉毛を下げて笑った彼は言った。

「吉岡さんは?紅茶好き?」

「…うん。っていっても、飲んでるのはスーパーの安いやつだけど」

「ティーポットって家にある?良かったら少し持ってきなよ」

「え、いやいいよ、無くなっちゃうよ」

「どうせ俺しか飲んでないから、いいのいいの」

持って行ってくれた方が嬉しいからと、取りに行った瀬良君はラベルの違うものを三袋程持って戻ってきて、小さな紙袋にまとめると私の前に置いた。申し訳なさで一杯だったけれど、ここまでして貰っておいて断る訳にもいかず、おずおずと手を伸ばしてそれを受け取った。
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