大事にされたいのは君
傍に、居たい。
その言葉はたった今、彼の口から告げられたものだった。そしてそれは私の中のスイッチを押す、きっかけの言葉になった。
「…それは、友達として?」
ついて出た言葉に、瀬良君が固まる。
「ただ友達として、傍に居たいと思ってるって事?」
ここまで来たらもう、何が何だか分からなかった。友達で嬉しいのに、友達で悲しい。傍に居たいのに、傍に居られるのがーー…
「それならもう、傍に居て欲しく無い。私には君しか居ないけど、もういい」
どこにも行く場所なんて無いくせに、そんな事を言う自分が信じられない。今だって本当は嬉しかったのに、彼以外に頼れる人なんて居ないのに、本当はずっと傍に居たいのに、もうそんな事はどうでも良い。
「君の言う友達の距離が分からなくて辛い」
全ての原因はきっとここにあった。私と瀬良君の言う“友達”が表す意味が違うのだ。だから余計に絡まって、拗れて、自分一人では解けなくなってしまった。
「瀬良君の言うそれは、ただの友達の距離じゃない」
…ついに言ったと、胸のつかえが取れた気持ちがした。私のそれは意を決して発した言葉だった。瀬良君には瀬良君の友達との距離感があるのは分かっている。でもそれをそういうものだと受け入れる事が私には出来なかった。
もう私には何も分からないまま傍に寄ってきた瀬良君を受け入れる勇気が無い。瀬良君の行動に一人で意味付けをして、間違えて、絶望して、後悔して、やり直して、また間違えて…そんな無意味な繰り返しはもうしたくなかった。繰り返すたびに傷つく心はその痛みに一向に慣れる事は無く、むしろ重ねる毎に傷がより深くなっていくようにも思えた。そしていつかきっと、修復不可能になる程にまで深く私を蝕むのだろう。それが怖かった。